ぎふサイエンス・キャンプ活動報告(1日目)
ものラボスタッフの矢田です。
ものラボでは今年度から新しい取り組みとして、岐阜市教育委員会と協力して「ぎふサイエンスキャンプ」を8月2日から4日まで開催しました。 継続して開催している高山ワークショップの内容をベースとした、ものラボ初の泊まり込みワークショップ(2泊3日)です。 50人もの小学生のみなさんといっしょにピタゴラを作る、とても大規模なものになりました。 岐阜市教育員会の方々をはじめ、我々ものラボスタッフと東大・岐阜大・岐阜聖徳大・岐阜高専の学生サポーター、そして岐阜のSTEM教員のみなさんでサポートし、最終的にはすばらしいワークショップになりました。 そこで、本記事から1日ずつ、ワークショップの様子をお伝えしていこうと思います。
「ぎふサイエンスキャンプ」は岐阜市少年自然の家で開催されました。 8倍もの応募からの抽選で参加することとなった50人の子供たちは、まず朝10時からの開会式に臨みます。 ほとんどの子供たちはお互いがこの場で初対面です。 しかし、彼らはこのワークショップを通じて仲間と協力してものづくりをすることを学びます。 ここではその高いハードルが顕になるのです。
その後、荷物を部屋においた後、子供たちはペットボトル空気砲づくりに挑みます。 アイスブレイクとなることを意図して、ここから班ごとに活動します。 ペットボトルの底を切り、風船をかぶせてつくる簡単なもので、見本を元に自分で作り方を考えます。 それ自体は難易度が低いですが、実はペットボトルに風船をかぶせるのが一人では難しいのがポイントです。 独力で成し遂げるのもひとつですが、ここで班の人に協力を頼むというのも適切な解法でした。 いくつかの班ではさっそくそのような協調が見られたのがすばらしかったです。 空気砲ができれば玉入れゲームです。 空気砲の口に発泡スチロールの弾をのせ、風圧で飛ばしてかごに入れるのですが、たくさんの子供たちが熱中していました。
空気砲はお持ち帰り可ということで、班の学生スタッフといっしょに昼食です。 我々スタッフにとっては久しぶりの「給食」で、味を懐かしみながらいただきました。 この時点ではまだまだ班のなかの会話はぎこちないところがあります。
さて、昼食後はサイエンスキャンプのメインにして目玉であるピタゴラ装置の製作が開始となりました。 この時間では2人1組で「パーツ」と呼ばれる小さなピタゴラ装置を作ってもらいます。
学生スタッフが事前に用意した見本のピタゴラ装置に触発され、子供たちは一目散に材料置き場をめぐりました。 みんな思い思いに試行錯誤をしながら、学生スタッフの後押しも得つつ、ちょっとしたギミックの核を形作っていきます。 本ワークショップの新しい試みとして、終盤では一度手を止めて、班でつくるピタゴラ装置の「計画」を練りました。 各ペアが作った「パーツ」をどのような順番で組み立てるかを考えます。 思い思いに作ったパーツを「つなげる」ことを課題としてつきつけられた子供たちが戸惑っていたのを覚えています。 ピタゴラ装置制作において「つなげる」ことは非常に重要で、最も難しいポイントです。 そのことに気づいてもらうための「計画」パートでした。
子供たちはピタゴラの「つなぎ」という大いなる謎を胸に抱えたまま、一度ピタゴラからは離れて、「センサー」の体験をします。 ものラボで扱うピタゴラ装置の特色ともいえる、マイコンを使った電子工作です。 この時間の活動は班単位ではなく、ランダムなペアを単位として実施しました。 講座の内容ですが、センサーは入力→マイコン→出力の流れで成立すること、そして電気の流れ方だけを提示して、圧力センサーをつまむとLEDが光るセンサー回路を作るという練習問題を出しました。 高山ワークショップの方式を受け継いだやり方ですが、これが相当難易度が高かったようで、多くの子供たちを苦戦させてしまいました。 もともと、このサイエンスキャンプで最も難しい講座としてわざと設計したのですが、いくらなんでもレベルが高すぎたようです。 回路の組み方についてのチュートリアルをもっと丁寧にしてもよかったかなと今は思うのですが、この難易度でも食らいついてくる子供たちや、プログラム通りLEDが光る様子を見て達成感を得る子供たちが一定程度いたことは救いです。 この講座の講師として、すべての子に基礎をしっかり習得してもらうか、適性のある子だけが発展的な発想を体得できるようにするかレベル設定を迷いましたが、後者を選びました。 厳しいようですが、余裕のない制作スケジュールの中でピタゴラ装置へのセンサー組み込みを考えると、班のなかで誰か一人でもセンサーを使った工夫に長けていればよいというのが高山ワークショップで我々が得た結論です。 といっても、原理の部分の基礎や、センサーでできそうないろんな楽しいことへの想像力についてはできるだけ多くの子に知ってもらえたらよかったとも思うので、この部分のバランスは個人的な反省点になりました。 この時間、岐阜高専の学生スタッフのみなさんには目覚ましい活躍をしてもらい、大変お世話になりました。 そして私の課す難易度に苦しんだ子供たちに寄り添ってくれた他の学生スタッフにも感謝が尽きません。
頭をハードに酷使するセンサー講座のあとは、さらに頭をつかう「ピタゴラ装置の計画づくり」です。 「つなぎ」のために何をしなければならないか、センサーを組み込むとしたらどこにどんなふうに使うかを班のみんなと相談します。 とくに「つなぎ」のための「パーツ」を作るという発想が大事になりますが、ここは往々にして難しいので、多くの班が苦戦していたように思います。 この時間の特色は、2つの班をペアとして、自分の班の計画を相手の班に聞いてもらってフィードバックを得るという「ラウンドコメント」を実施するところです。 これにより、アイディアの交換はもちろん、自分の班の成果物が他の班に見られることへの意識を育むことが期待できます。 計画づくりには模造紙とカードを用い、ラウンドコメントには付箋を使いました。 こうした素朴な道具を使うことが実は重要で、およそ何かを考えるためにはツールを使うことが必要だと気づきます。 これまで作ってきたもの、これから作るべきものを整理できた子供たちは、明日完成させねばならない(!)ピタゴラに思いを馳せながら、夕食へ向かいます。
夕食は昼食のときよりも子供たちがくだけた様子を見せ、今日までの活動でさっそく友達を作れた子供もいたようです。
夕食後は岐阜市科学館の職員の方による「スターウォッチング」(星空観察)だったのですが、あいにくの雷雨で中止となり、屋内で星についての講義を受けることになりました。 たのしいクイズで子供たちも気分転換できたものと思われます。
その後、入浴を済ませた子供たちは広場で今日の反省会を班ごとに行いました。 「今日頑張ったこと」、「明日やりたいこと」、「明日みんなのためにできること」を一人ひとり発表してもらいます。 多くの班でお互いのメンバーの考えを聞くことで、仲間意識が育まれたのではないかと思っています。
初日の活動は以上のようなものでした。 個人的には、初対面なのにさっそく友達を作れた子供たちはすごいと思っています。 学校も学年も違う人と同じ班になって、一つの目標に向かって協力することは困難なタスクです。 その意味では幸先の良いスタートを切れたのではないでしょうか。 といっても、翌日にはピタゴラを完成させ、最終日には発表や実演をする必要があります。 この日、いいアイディアはたくさん出ているけれど、まだまだ残された課題は多いという印象も受けました。
スタッフとしての感想は、元気の良い子供たちに柔軟に合わせ、サポートの方法を変えねばならない難しさに集約されます。 古参のメンバーである私は、かえって過去の経験があるぶん、高山とは感触の違う子供たちに少し手間取ってしまいました。 そこは周りにいた優秀な学生サポーターに助けられたのですが、子供に何かを教えるということはやはり簡単なことではないなと思わされる日々を過ごすことになりました。
とはいえ、初めての試みで正直不安も多かったのですが、上記のように周囲のスタッフに力強く支えられ、子供たちの溢れんばかりの元気によって机の上で形になり始めたピタゴラを見たとき、きっとこのワークショップはうまくいくという手応えを得て、私の1日目は終わりました。
2日目からは別のスタッフに執筆をバトンタッチします。
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